幽洞の備忘録

ゲームやって思ったことかく。

ポケモン×工芸展

春ですね、さっとらです。

 

突然ですが、皆さんは博物館・美術館に行った際、図録は買う派ですか?

自分の場合、常設展のものはあまり手元に無いものの、企画展目当てで行った際などは予算気にせずポンポン買ってしまいます。

現在自分のデスクにはポケモン関係の本をまとめて置いてあるスペースがありまして、ここに昨年の(場所によっては今年も巡回しているみたいですが)ポケモン化石博物館の図録もある訳なんですが、まあまあ手に取りやすい位置にあることもあり、ゲームが作業っぽくなったときなどによく見返すんですよね。これがまあ読み応えのある物なのですが、見返すたびに博物館という空間にポケモンが存在する独特の雰囲気を思い出して、「またこの手のコラボがあるといいなあ」と勝手に思っていました。そこへやって来たのがこのお知らせです。

 

 

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と、いう訳で新幹線で約3時間、金沢へ行ってきました。今回はこのポケモン×工芸展の感想を殴り書いていきます。

自分自身は工芸展というものをしっかりと見に行くこと自体初めてだったので、「技術的なものが何も分からない自分なんかが見に行ってもいいものなのか……」というちょっとした不安もありました。結果としては非常に楽しめましたが、人によっては図録を読んだり、テレビ番組等での特集を見てから行った方が楽しめるかもしれません(後述します)。

 

工芸展は主に「すがた~迫る!~」「ものがたり~浸る!~」「くらし~愛でる!~」の3つで構成されていて、それぞれのテーマごとに作品の方向性が少し違います。今回の記事もこの展示順になぞっています。

 

 

 

1.「すがた〜迫る!〜」

「すがた〜迫る!〜」ではポケモン世界で生活する「生物」としてのポケモンの実態に迫った作品が多いのですが、その表現方法は色に焦点を当てたり、質感に焦点を当てたり、動きや切り取り方を重視したりと作品によって様々でした。

 

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会場に入って最初に出迎えてくれるのが、イーブイと初代時点でのその進化系です。ポスターにもなっているサンダースもいます。大きさも恐らく実際のブイズと同じに作ってあり、暗い室内で最初に出会う作品としてはかなりのインパクト…!

キャプションを読むと銅でできているとのこと。自分が想像できる、これまでに見たことのある銅製のものとはあまりにも印象が異なるので驚きました。いや、赤色は分かるけど、黄色、青色の銅って何???

毛のような質感は細かいパーツを組み合わせてできているためで、パーツ一つ一つがそれぞれのタイプと対応した形に作られています。イーブイだけは全タイプ(たぶん)のイメージが使用されていて、作家さんの思い出深いポケモンということもあってモチーフへの理解度が凄かったです。f:id:greennoise:20230504154909j:image
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目を凝らすと体が炎のようなパーツで構成されています。


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横並びだとこんな順番。展示室に入るとすぐにスタッフさんから見る上での注意(足元の線を超えて作品に近づかない、フラッシュを焚いて撮影しない、など)がありました。聞いている限りだと入場者全員にしているようでしたが、子供が多いための措置なのか、はたまた自分が来る前に何かあったのか……

 

「森羅万象ポケモン壷」も圧巻でした。遠目にはポケモンとは思えないほど細かに散りばめられたポケモンの総数は500匹を超えるんだとか。自分がポケモンを始めたときの全ポケモン数よりも多いんですけど……。
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とにかく無限に見ていられるのがこの作品で、結局どれくらいこの壺の前で止まっていたんだろう、という感じです。ポケモンも単なる公式絵ではなく、一匹一匹ポーズを取らせて描かれています(図録によるとすべてフリーハンドらしい)。

惜しむらくは壺の下の方はとても見にくく、これが図録等でも特に補完されていないことでしょうか。
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続いては木工作品が登場!最初のブイズがリアル寄りだっただけに、原作まんまのホウオウが出てきて作家さんの個性を感じます(ちなみに反対側にはこれまためちゃめちゃリアルなフシギバナアーボックがいます)。f:id:greennoise:20230504154915j:image

写真でもホウオウの下、麻の葉文様の橋が虹色になっているのが分かるでしょうか。「ホウオウは飛んだあとには虹がかかる」をストレートに表現しているところがすごく好きな作品でした。
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この方の作品としては、アゲハントアリアドスも展示されています。ポケモンの立体感はもちろん、口を伸ばすところを切り取った感覚もすごいですよね。アリアドスは確かに自然の中にいるよりも、和室で出くわした方がインパクトがあるかも……と思わせる説得力があります。

図録によると、アリアドスの畳も木から彫っているんだとか。アゲハントのいる地面も「雨上がり」を表現するために小さな凸凹が彫られていて圧巻です。

これらの木工作品は着色されておらず、木材本来の色だそう。技術の高さもさることながら、現実世界の自然のバリエーションの高さにも驚かされます(ここまで鮮やかな赤とか黄色の木なんてあるんだ……)。

 

 

最初の展示室の最奥で待ち構えているのが自在置物のギャラドスです。
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写真だと分かりにくいですが、「自在」なので可動します。それも体のうねりからヒレ、口の開閉まで自由自在です。

この作品に関しては、これまで実在する生き物しか作ってこなかった作家が、初めてフィクションの生き物を作るにあたって、自在置物の伝統としてある龍などの伝説上の生き物を作る気持ちが分かった、という話もまた面白いです(図録のほか、テレビ番組等でも紹介されていました)。この手の作品について無知な自分からすると、そもそも現実にいる生き物を作る際に、標本を手に入れて、可動部を解剖して仕組みを知る従来の方法自体「なるほど〜」となった訳なのですが。

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自在置物はこれと2点、バタフリーとスピアーも同じ作家さんが作っています。これに関しては羽化の瞬間という切り抜き方も魅力的です。もともと虫の自在置物を作っていたとあって、スピアーの胴から足にかけての造形もとてもリアルで、かつかっこいいものになっています。


ギャラドスを目にしたあと折り返すと、粘土で作られたポケモンたちもいます。
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キングラー!細かな突起の表現と、現実世界のモチーフと合わさっていることから醸し出される独特な存在感が特に気に入ってる作品です。
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フシギバナアーボックもいました。newポケスナといい、アーボックには鱗の表現を極めたくなる魔性の魅力があるのかも。

 

 

 

 

2.「ものがたり〜浸る!〜」

部屋が変わって次のテーマは「ものがたり〜浸る!〜」です。

ポケモンの表現への追求はそのままに、ここでの作品は物語に重点が置かれています。最初のキャプションでは「世界観への挑戦」という言葉を使っていました。メインのシナリオはもちろん、旅の途中でトレーナーが体験することすべてがモチーフになります。

 

「ものがたり~浸る!~」の最初の作品は、ポケモンの技に焦点を当てた2点です。冒険の中で見慣れた技の新しいアニメーションに感動したり、新しい技に驚いたりするのも、ポケモンのストーリーを進める上で印象に残ります。

ちなみに、正直言ってどちらも何も知らずに見たらポケモン関係の作品とは分かりません。
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これは「かげうち」。

 

工芸館の

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ここの部屋(ラウンジ)を丸々使って展示されています。出入り口との比較でも分かるかと思いますが、非常に大きな作品です。本来は大きな窓があるはずの部屋ですが、光は遮断されており、薄暗い室内に佇む漆黒は迫力満点です。

「かげうち」は自身の影を伸ばして相手の背後に回り込んで攻撃する技で(ぶっちゃけ今回の展示を見るまで自分も「かげうち」が何をやっているのかよく知らなかったのですが)、自分を飲み込むような巨大な影は、実際にポケモン世界で「かげうち」を見たときと似た印象になるのかもしれません。LEGENDSアルセウス以降の作品ではトレーナーのすぐ近くでポケモンの技が放たれる場面も少なくなく、我々の世界では異質としか思えないこの漆芸作品のような存在と隣り合わせになっている、ポケモン世界について改めて考えさせられます。

まあそこまで難しく考え込まなくても、近くで「かげうち」を撃たれたトレーナーやポケモンの気持ちを想像しながら作品を近くで見るだけでポケモン世界への没入感を覚えることができる作品でした。

 

 


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これは「つららおとし」。
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その表面は曇りガラスのようなものと、透明に見えるものの2種類があります。氷柱として落ちる際か、敵ポケモンに当たるか外れるかした際に氷が割れ、割れたときの面を透明に、それ以外の面を曇らせているのだと思われます。透明な部分は内部で少し歪んでいるように見えたり、気泡が存在したりと氷の表現がとにかくすごい。

 

「かげうち」と「つららおとし」、2つの技に関する作品がありました。個人的な感想としては、世界観に浸れはするものの、最初のテーマ「すがた~迫る!~」にも通ずるものがあるように思えます。実際にこの2作品は「すがた」の展示室を出て、「ものがたり」の展示室へ向かう途中の小部屋に展示されています(図録等での分類は「ものがたり」)。

 

「ものがたり〜浸る!〜」のテーマキャプションのすぐ後に現れるのがこのガラス作品です。

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他ではちょっと見たことのない絵のタッチは、エナメル描法という作り方をしているらしく、ガラス面に1色ずつ、不要な部分を取り除きながら吹き付け、これを焼き付けるという作業を繰り返しているそうで驚きです。計8色しか使っていないというのも意味が分かりません。

この作品をポケモンファンの目線から語る上で欠かせないのが、モチーフをガラルでの冒険に決めた、その経緯です。作家の方は1954年の生まれで、今回作品制作のために初めてゲームというものを体験したんだとか。もちろん作品としても素晴らしいのですが、初めてのポケモンとして、(王道で爽やか、悪らしい悪がいない)剣盾を遊んだ一人のトレーナーが感じたことが表現されていると思うと、いっそう魅力的に感じます。
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作品は3つで構成されており、最後には無事に殿堂入りを迎えます。なぜかドリュウズがよく出てくるので、ドリュウズが最終的にお気に入りになったのかなあ、と想像できるのも魅力。
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旅の思い出や所謂旅パをファンアートのような形で表現するのはよく見ることができますが、この作品に関してはその中でも特に良いものを鑑賞できたように思えます。技法と表現に加えて、初めてのポケモンと作家のバック、それぞれが完璧に合わさっているように思える、個人的にとても好きな作品でした。

また、作品を作るにあたって、対象に対して自分がどのように感じているかを知ることが重要、という作家の考えもすごく共感できます。

 

続いては1つ前の世代に戻ってアローラ地方をモチーフにした着物です。
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沖縄の伝統的な着物ということで、南国アローラの柄とのマッチ感がすごいです。

「旅の風」を主題として製作したそうで、図録にある作家さんの「旅」観は我々の世界とポケモン世界に共通する旅の魅力が表れていました(個人的に図録の中では一番の名文)。

風に揺らされる植物はアダンの葉。「くらし~愛でる!~」で展示されていた水文メッソンの青海波をはじめとした文様でも感じましたが、ポケモン作品の中で町や人物の名前の由来になっている要素が展示に出てくるとまたテンションが上がります。
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余談ですが、この作家さんの工房の写真が図録に載っていまして、これがまたアローラの、バトルツリーの周りにありそうな雰囲気の工房ですごく好きですよ。見てくれ……。

 

 

 

これは可変金物のココガラ。変形してアーマーガアになります。かわいい〜!

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フォルムとしての完成度と、誰でも分かるギミックの凄さもあって、「ポケモン×工芸展」ってどんなのあるの?と聞かれた際に最初に紹介してしまう作品です。

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これは変形(進化)後。質感ともマッチしています。ココガラのときどこに位置していた部分が、変形後にどこで使われているのかを考えるだけでも楽しい作品。

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制作段階の展示も充実していました。

 

お次は螺鈿の作品です。自分は螺鈿の工芸品と聞いても、歴史や美術の教科書にあるようなものしか知らなかったので、今回初めて現代の螺鈿の作品を見ました。
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今回の展示の中でも一二を争う細かさの螺鈿は、レーザーカッター等の最新技術を駆使して作られているそうで、既に自分の持っていたイメージからはかけ離れています。

勿論それによって美しさが変わることはなく、元々細かに色を変えて輝く貝が、小さくカットされたことでいよいよ目を凝らさないと捉えきれない不思議な美しさとなっていました。
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モチーフとなっているのはアンノーン文字や初代における最初の3匹などで、特にアンノーンポケモンそのものが持っている不思議さ、不気味さと螺鈿の輝きの相性は抜群です!

ポケモンの交換に焦点を当てたものもあります。確かに交換は、初代から一貫してポケモン作品のアイデンティティの1つとなっている要素ですが、ここに想いを馳せて浸るというのは自分ではちょっと思いつきそうもありません。

 

 

「ものがたり〜浸る!〜」の最後にあるのが「ピカチュウの森」です。タイトルを見た瞬間「たしかにゲームだけがポケモンじゃないよな……」と思った覚えがあります。モチーフとなっているのは勿論アニポケ無印の名エピソード「ピカチュウのもり」です。
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中央に道があるのが分かるでしょうか、ここから作品の中に入り、360度をピカチュウに囲まれる体験ができます。

「森」はそのまま植物と、様々なポーズをとったピカチュウをあしらったテキスタイルが縦に繋がれ、アニメのシーンが再現されてます。
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この作品もまた、制作段階の展示があります。一つだけ色の異なるピカチュウがいるのもポイントです。色違いは実際の作品内にも1匹だけ隠されていて、この列はモチーフになったエピソードをストレートに表現していました(子供の方が見つけやすいかも)。

ポケモン×工芸展ですが、実はポケモンの顔であるピカチュウの作品はそんなに多くありません。作家さんのコメントによると、色々なポケモンでアイデアを出したが、結局ピカチュウの可愛さを表現したいというところに戻ってきたとのこと。ピカチュウに決定するまでの試行錯誤の段階は、「美の巨人たち」で見ることができます(テキスタイルから発想を糸を吐くポケモンへと飛ばし、ウルガモス等の虫ポケモンを中心にしたデザインが考えられていました)。
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ちなみにこのピカチュウのもりはミュージアムショップで一列分を購入することもできます。

 

 

「ものがたり〜浸る!〜」の作品の制作の原点には、ポケモンにまつわる作家さんの体験がありました(メディアは問わず)。

ポケモンを倒しての体験というのは、ゲームのストーリーから交換、進化といった要素一つ一つに至るまで、トレーナー全員が同じものをなぞりながら、それでいて一人一人が違ったものを経験しています(ストーリークリアだけを取っても旅パがそれぞれ違うように)。この展示では、原点となった体験については見ていた自分自身も共有しているため、自らが経験した出来事に想いを寄せながら、「作家さんはポケモンでこんな経験をしたんだなあ」「それをこう感じて、こう表現したのか!」と比べることができます。ある意味ではポケモンの感想を混ぜ込んだ作品の、それも表現豊かなものを立て続けに浴びせられたような、そんな感覚でした。

 

 

3.「くらし〜愛でる!〜」

最後は1階に下って「くらし~愛でる!~」の展示。

展示されている作品でありながら、日々の生活の中でも使うような作品が中心です。

 

展示室内ではいきなり「愛でる」の愛の字を体現したかのような作品が登場します。

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かわいい~~~!!!

 

まずはヌメラ!もともと溶けているようなフォルムと壺と一体化している表現がとても合います。

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そしてマホミル!こちらもポケモンの特徴とよくマッチした作品になっていますが、壺の形など、ヌメラとの違いも見られます。1番の違いは光沢でしょうか、ポケモンに合わせて表現を変えているのが分かります。
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その横のタネボーなどはさらに光の反射が少なくなります。自分の場合は展示ケースに入った焼き物を見ると、縄文、弥生の時代に木の実等を入れていたような博物館の展示を思い出します(実はこの一角だとタネボーの素朴な感じが一番好きでした)。
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お皿もあります。テッポウオが付いてるマンタインは久しぶりに見た気がしたな……。
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ポッチャマのお皿は泳いでいる姿が表現されています。これに食べ物を乗せたらポッチャマが運んできてくれるように見えそう。

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展示全体としてはこんな感じ。タマンタキャモメもいました。

 

 

続いてはポケモンと一体化したような壺が登場します。

続いては、と言いましたが、実は先ほどのきゃもめやポッチャマの染付皿と同じ作家の方が作っています。一人で何点作ったんだ……。

 

これはファイヤー。
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これはキュウコン
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この先も炎タイプのポケモンが続きます。焼き物なので、ポケモンの色は本物の炎が作り出した色ということになります。
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リザードンは非常に大きな作品で、前に立つと思わず息をのむ迫力がありました。色のムラも絶妙です。

 

 

 

展示室の半分を過ぎたあたりで登場するのが蒔絵棗のファイヤーで、これは今回の展示でも特に気に入っている作品です。

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黒を背景に浮かび上がる金色と朱色(実際に金粉を使っているらしい)の伝説のポケモンの美しさとカッコよさの両立がすごいのはもちろんのこと、本来は一目見ることも困難な伝説のポケモンをモチーフに作られたこの作品は、ポケモン世界で使われ、茶室で静かに実在する「伝説」の存在へと思いをはせる様子が想像できます。題の「春を呼ぶ」もすごく好きで、四季の移り変わりとそれを司る伝説のポケモン、そして伝統ある工芸とのコラボレーションは最高の一言に尽きます。


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図案も展示されています。この展示室だけでもファイヤーの展示が3つあることになるので、ちょっと作家さんたちから好かれすぎてる気がする。


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タッツー系統の作品と同じ展示ケースに入っていました。

 

 

 

色々な場所で紹介されていた、人間国宝の作家さんによるブラッキー帯留やブローチも、この最後の展示室で見ることができます。
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作家さんはピカチュウポケモンということすら知らなかったそうですが、今回の作品制作にあたってポケモンを調べ、その中でかわいいと思ったブラッキーに決めたそう。これは国宝級のかわいさ……。

金具なので、本物の金が使われています。寝姿の縁取りは集めた月光がイメージされています。
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ルギアとホウオウの香合も作っています。ひとつ前のファイヤーでも書きましたが、茶や香など、リラックスできる嗜好品にまつわる作品と、伝説のポケモンとの相性はすごく良いように感じました。

 

 

今回の記事で最後に紹介するのが文様で埋め尽くされたポケモンたちです。「くらし~愛でる!~」では日常生活の中で使うことが想定された作品が多かったため、一瞬戸惑いますが、すぐに同じ柄をしたかわいいお茶碗が出てきます。
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文様はどれもポケモンのタイプと関係の深い唐草、火炎、水で、ポケモンの体を隙間なく埋めても(特にサルノリとメッソン!)不思議と違和感がありません。縁起の良い文様は最初のポケモンを貰って旅立つトレーナーを祝福してくれそうです。

 

 

 

 

さて、ポケモンを題材とした作品で、生活をイメージできるということは、すなわちポケモン世界でもこの作品が愛され、使用されている想像ができるということでもあります。自分は「くらし~愛でる!~」で、ポケモンのフォルムや特徴と作品の機能とが合わさった作品を鑑賞しながら、常に「これはポケモン世界ではどの地方のどの町の、どんな人が使っているだろうか」と思いを巡らせながら楽しんでいました。

 

また、同時にポケモン作品に存在する工芸品についても意識が飛びます。芸術作品としての絵画は各作品に登場しますが、立体物となるとどうでしょうか。すぐ思い浮かぶものとしてはジムやポケモンリーグにある石像や、各地方の伝説のポケモンの像、最近だとSVのボウルタウンには芸術作品として多数のオブジェが配置されていました。

伝統工芸品としてはポケモンこけしや木彫りのグレッグルあたりがおそらく当てはまるでしょう(シンオウは古くからある場所として作られたマップが多く、石像なんかも多い気がします)。

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自分の場合、ストーリー攻略中などは特に、ポケモン世界での生活を感じられるようなこの手の小物(ゼニガメじょうろみたいな日用品も含めて)が出てきたり、想像できたりする場面が好きなので、この展示室はより魅力的に感じました。

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おわりに

行く前は気に入った作品数点をブログにでも書いておこうかな、程度に思っていたのですが、結局は展示作品の半分以上について感想を書いてしまいました(それだけ自分の想像を超えてたくさんの良い作品と出会えたのでよしとしたい)。

ポケモンと伝統工芸とのコラボはこれが初めてという訳ではなく、これまでも販売という形で行われてはいました。しかしながら今回の展示は、一点ものの作品を展示している点や、作家の内面にまでフィーチャーしている点でとても新しく感じます。自分が今まで訪れたポケモンのイベントの中でも独特な雰囲気を持っていました。

 

自分は工芸品には全くの無知だったため、基本的にはポケモンファンとしての目線で作品を鑑賞していましたが、来場者の中には年配の方々もいて、様々な人間がそれぞれの立場に合わせた新しい体験ができたのではないかと思います。

また、ポケモンファンとしての視点だけでも楽しめながら、「この人は元々どういう作品を作る人で、それがどう表現されているのか」と自然に疑問に思える展示でもありました。ここまでしっかり工芸に目を向けるのは初めてだったので、非常に新鮮な気持ちで楽しめました。

 

今回、記事を書いている途中で工芸展の巡回の話が発表されました(先に海外に行ってから日本国内とのこと)。少し時間が空いてしまいますが、事前情報の時点で興味を持った人はきっと楽しめると思ったので、「石川は遠くて……」という方にも強くおすすめです(感想を書けていない作品もまだまだあります)。

 

最後になりますが、もし今後ポケモン×工芸展に行くことを予定している方がいたとしたら、図録の購入を強くおすすめしておきます。加えて、事前情報がない状態での、自分の初めて受けた感覚を大事にしたいのなら別ですが、もしそうでないのなら展示を見る前に図録を読み込んでおくのもありだと思います(会場じゃなくてもポケセンカナザワで売ってます。通販もあった気がする)。会場内でも展示についての説明はあるものの、図録の情報量はそれを遥かに凌駕していて、自分のように帰りの車内などで図録を読んだりすると、高確率で図録の情報を踏まえた上でもう一度展示を見たい欲が出てしまうのが理由です。工芸の知識がない人も、技法などの基本知識について書いてあるので予習になりますし、これを読んでいる人の中にはほとんどいないと思いますが、ポケモンに詳しくない人へ向けたポケモンの紹介も少しだけあります。本の装丁もとても豪華で、高級感のある表紙と銀色に輝く各頁を持つ図録は本棚に置いてあるだけでもQOLが上がった気分になります。

 

まだまだ思い出に浸りたいところではありますが、HOME解禁の足音も近づき、パルデアでもヒスイ・ガラルでもやりたいことがどんどん増えていって忙しいこの頃。ここらで筆を休めることとします。

 

それでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補足:5月の頭には「日曜美術館」「美の巨人たち」の2テレビ番組でポケモン×工芸展の特集がありました。作品を作る工程を映像で見ることができたり、作家さんによる他の作品への感想があったりと、会場や図録等では知りえない情報もありました。